2017年12月1日

【導入事例】教育のICT化の起点は、教室の中心にある「黒板」を進化させること[前編]

教育のICT化というと、普通教室にプロジェクタや電子黒板を導入し、児童生徒にタブレットを持たせてアクティブ・ラーニングという公式が出来上がりつつありますが、東海大学付属相模高等学校中等部では、黒板自体をICT化させることを起点に教育のICT化を推進しています。なぜなら、教室では黒板がもっとも重要かつ中心的なツールであると考えているからです。

教室で、ごく自然に溶け込むICTとは

神奈川県相模原市にある東海大学付属相模高等学校中等部は、男女共学の中高一貫教育で、およそ8割の生徒が東海大学へ進学します。受験勉強から一定の距離を置くことで理想的な教育環境を整え、文武両道で名を馳せる同校。硬式野球部や柔道部からは著名なプロ選手、メダリストを輩出しているだけでなく、吹奏楽部などの文化部でも強豪校として有名です。

その伝統校の中等部3学年の全教室には、2016年9月からウルトラワイド超短焦点プロジェクタ「ワイード」が導入されています。またそれに合わせて、既存黒板の面材を新しくする貼替工事を行いました。実際に訪れてまず驚いたのは、言われなければ気がつかないほど、普通教室にこの組み合わせが自然に溶け込んでいる姿でした。

最先端のICT機器を使っているからといって、教室の風景ががらりと変わってしまってはいけない。もちろん、伝統ある教育方針の根幹にある授業のスタイルががらりと変わってしまってもいけない。ところが、見学させてもらった教室では、授業スタイル(黒板に板書)自体はおそらく従来と変わりないだろうと思われるものの、適時に黒板への投影が使われることで「授業が進化している」印象を受けるのです。違和感もありません。機器の操作や扱いに対する教師陣の戸惑いがまったく見受けられない、生徒たちにも戸惑いが感じられない。それはあたかも何年も前から行われてきた授業風景、と錯覚するほどでした。

ワイードの最大の特徴は、なんといっても16:6という横長の黒板いっぱいに迫力ある画像や動画を表示できること。テレビサイズに換算すると120インチから140インチ相当の大画面です。もちろん従来の16:9や4:3での投影も可能なほか、投影画面を黒板の左側、中央、右側に簡単に移動させることができるため、投影画面に重ねる形で板書したり、投影画面外の余白に板書したりという、いわばハイブリッド黒板が実現できます。実際に見学したいくつかの授業では、ワイードと板書を併用しながら進められていました。

一方で、普通教室といえばどこの学校でも窓から太陽光が入ってくる造りになっているため、黒板にプロジェクタから直接投影すると「きれいに見えない」「はっきり見えない」といった問題があります。これはワイードも同様です。そのため、投影時は黒板にマグネットスクリーンを貼り付けるといった工夫はよく見られる光景ですが、授業中にマグネットスクリーンを貼ったり外したりするのも効率が悪く、結果、授業中は貼ったままとなる場合がほとんどです。そこで「黒板の進化」です。同校では、既存黒板はそのままに、面材を「映写対応サンヤクブルーグレー黒板」に貼り替えました。ブルーグレーの特徴は、チョークの見えやすさとプロジェクタの投影画面の見えやすさの両立です。

※全教室にワイードを導入するにあたり、東海大学付属相模高等学校中等部では黒板自体を「サンヤクブルーグレー」という表面材に貼り替えました(左が従来の黒板で、右がサンヤクブルーグレー黒板)。

板書の内容はあらかじめPCでつくっておきます。これをDropboxやOneDriveなどのファイル共有サービスを利用して教員用タブレット(iPad)で再生し、Wi-Fiとワイードを経由してサンヤクブルーグレー黒板に投影します。同校教頭の森公法先生は、「これにより、板書を手書きする時間を節約し、なおかつ(黒板の)余白の部分に必要な板書をすることで、従来の授業スタイルを変えずにより効率を高めた形で行えるようになりました」と話しています。

誰でも使いこなせるから余裕が生まれる

ワイードのもっとも典型的な使い方をしていた授業の1つは、2年生の数学でした。平行線の対頂角、錯角、三角形の内角、外角などの基本知識を使って、複雑な図形の角度を求める演習授業です。

先生がまず黒板の左端に基本的な図形を描き、対頂角などの性質について説明をします。そして、演習問題を黒板の中央に投影し、ドリル演習を行います。生徒の理解度を見ながら、途中で、黒板に投影した演習問題の図形にチョークで補助線を上書きし、ヒントを与えていきます。そして、右端の(黒板)余白に回答を先生または指名した生徒が板書していきます。

※もっとも典型的なワイードの使い方。左に基本図形、中央に演習問題、右側に解説と黒板を分割して使います。左の基本図形は、授業中ずっと残されていて、生徒はいつでも基本を確かめることができる工夫も。

次の問題に移るときは、左端の基本図形を残して、中央から右端の板書を黒板消しで消し、iPadを操作して次の演習問題を表示します。この基本図形を残しておくことが生徒にとっては理解の助けとなっています。錯角・同位角などの性質は、生徒にとっては初めて知ることなのですぐには覚えられない。でも演習問題をやっているときに黒板を見れば、基本図形が確認できます。この確認は習得にとって大きいはずでしょう。

また、社会、古文の授業では、教材を黒板中央に投影し、それに解説をしながらチョークで板書を加えていくという使い方をしていました。iPadの場合、画面上で画像をピンチイン・アウト(2本の指で間隔を縮める・広げる)することで画像の拡大縮小が手軽に行えるため、はじめに16:6の全画面いっぱいに画像を表示してみんなで確認、その後、画像を縮小させて画像の横にチョークで補足を書き込むといったテクニックがごく自然に使われていました。英語の授業では、課題文を表示してチョークで下線を引きながら重要文法を解説したり、演習問題を表示して、答え合わせの際にチョークで回答を書き込んだり、という授業が見受けられました。

多くの先生が蛍光チョークを使って板書を工夫していたのも特筆な点です。特にピンクの蛍光チョークは、ワイードの投影光を反射して蛍光色がより強まり、目立ちます。とても見やすいし、女子生徒からは「かわいい色」と好評の声も。こういうアナログ的な工夫ができることはワイードを授業で使う強みになっています。複雑で高度なICT機器の場合、教師は使いこなすことに精一杯になってしまい、独自の工夫をする余裕がなかなか生まれてこないことも多いでしょう。しかし、ワイードは複雑で高度なICT機器ではなく、誰でも使いこなせるプロジェクタです。だからこそ、教師が機器に振り回されることなく、独自の小さな工夫をすることができるのです。

※手書きが大変な図形や表をワイードで投影し、その上にチョークで書き込みを行っています。ピンクの蛍光チョークは、プロジェクタの光が当たることでより強調されることを発見しました。

「授業デザインも、従来の一斉授業と基本的には同じです。ICT機器を入れたから、それに合わせて授業デザインを変える必要はないと考えています。つまり、教師がこれまで積み重ねてきた授業のノウハウ資産をそのまま活かせること。この余裕が、教師の努力を、機器の使いこなしではなく、授業デザインの改善の方向に向かわせるのだと考えています」(同校副校長 江﨑雅治先生)

軸を変えず、黒板を進化させる

さて、ここまで読み進めていくと、ある疑問を抱く方もいるでしょう。「東海大学付属相模高等学校中等部では、一斉授業のみをしていて、アクティブ・ラーニングなどの新しい授業スタイルは実施していないのか?」と。いいえ、そんなことはありません。ワイードを軸に、新しい授業スタイルも取り入れられています。

2017年4月入学の同校中等部1年生からは、1人1台のiPadによる授業活用が始まっています。計画ではあと2年で中等部全員がiPadを持つことになります。

ちなみに見学した英語の授業では、iPad用の双方向授業用アプリを使って演習問題を4択のクイズ形式にし、生徒は各自のiPadで回答、黒板に瞬時に回答数のグラフが表示され、答え合せをするワンシーンがありました。まるでクイズ番組のような演出に、生徒たちはノリノリで夢中になって取り組んでいる姿が見られました。

※英語の授業では、基礎知識ドリル演習をクイズ形式で行っていました。生徒は各自が持っているiPadから記号で回答すると、黒板に回答数のグラフが表示されます。すでにワイードと生徒のiPadを連動させた授業も展開されています。

ほんの少し前までは、きっとどこの教室でも写真や動画、音声教材などの授業活用には、用意周到な準備と苦労があったと思われます。でも、昔も今も「黒板は教室の中心」にあります。授業の軸を変えずに、時代に合わせてスタイルを少しずつ変えていく。それもICT機器が導入された日から突然変わるのではなく、従来のスタイルと地続きでシームレスに変えていく。この「自然に授業を先進的なものに変えていく」手段に東海大学付属相模高等学校中等部はワイードとサンヤクブルーグレー黒板を選択しました。誰も戸惑うことなく、過去のノウハウを活かすために。それでいて、時代にあった授業を展開していける。これからも「黒板の進化」を全国の学校に広げていきます。


教育のICT化の起点は、教室の中心にある「黒板」を進化させること[後編]」へ続く

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