宮城県岩沼市は、仙台駅から電車でおよそ20分の通勤圏で、仙台市のベッドタウンとなっています。子育て家庭が、住宅を求めて外部から流入することもあり、教育に対する意識の高い地域です。
岩沼市では、すべての市立小中学校に次のようなICT機器を配備しています。
教員:1人1台の授業・校務兼用iPad
児童・生徒:1人1台の学習用iPad(自宅に持ち帰り可)
教室:ウルトラワイドプロジェクター「ワイード」、液晶ディスプレイ、Apple TV
家庭:Wi-Fi設備のない家庭にはモバイルルーターを貸与
目次
ロイロノートとワイードの化学反応
岩沼市の市立小学校では、ロイロノート・スクールなどのツールとワイードを組み合わせた授業が盛んに行われています。ロイロノートは多くの小学校・中学校・高校・塾で導入されているクラウド型授業支援アプリ。電子教材を児童・生徒のiPadに一斉配付し、提出・集計できるだけでなく、児童・生徒の思考力を養うことができます。岩沼市では、小中学校にロイロノートを全面導入し、これをワイードと組み合わせることで、学びの深い授業を展開しています。岩沼市立岩沼南小学校もそのひとつです。
例えば、国語の授業では、教員がデジタル教科書の課題文をワイードで黒板に投影し、読解のポイントを解説します。この時、課題文の重要な部分には映像の上からチョークで傍線を引きながら解説を進めていきます。
従来の一斉授業であれば、これだけで終わるところですが、この後、ロイロノートのシンキングツールを使って、課題文の内容をチャートにまとめていきます。完成した児童からオンラインで提出しますが、黒板には提出状況が表示されていきます。全員が提出すると、教員が何人かのチャートを拡大表示して、全員でディスカッションします。ただ課題文を読むだけでなく、チャートにまとめるという身体的体験が伴うことで、課題文の内容を深く理解することができます。
また、テーマを決めて、iPadを使って調べ、それをロイロノートでまとめて発表するという授業も盛んに行われています。例えば、社会科で「自分の好きな国について調べたことを発表する」などのテーマが与えられます。児童たちは、Webや百科事典などを調べ、文字と表、写真などにまとめた発表資料を作成します。そして、iPadを手にして、Apple TV経由でワイードに接続し、黒板に資料を投影して発表を行います。
また、低学年から初歩的なプログラミングを取り入れた図画工作の授業も行われています。フリーハンドで描いた絵を動かすことができ、プログラミング言語を使わずにプログラミング的思考が学べるviscuit(ビスケット)を使った授業です。初めて触れる児童にとっては決して易しいことではなく、悩んで手が止まってしまう児童もいます。この時、黒板には教員がピックアップした児童の制作過程が投影されています。作業中の画面が4名分まで表示できるのです。迷って手が止まってしまった児童は、同級生がどうやっているのかを見ることができ、そこからヒントをもらい、再び手が動き出します。教員は机間指導を行い、サポートしていきます。
岩沼市では、iPadとワイードを組み合わせ、生徒iPadと黒板を繋ぐことで、授業の効果を高めています。成果物を黒板に投影するだけでなく、作業過程をリアルタイムで黒板に投影することもできるからです。
生徒のiPadをApple TVに接続し、それをワイードに出力することで、生徒のiPadの画面を黒板に投影をしています。同じことは必要な機材を用意することで、ディスプレイやプロジェクターでも可能ですが、ワイードと黒板の方が授業効果は高いと言います。
「ディスプレイは黒板から離れた場所に設置をされているため、児童は黒板とディスプレイの間で視線を往復させなければなりません。集中が難しくなります。板書と映像が一体化できるワイードの方が集中しやすくなると感じています」(岩沼市立岩沼南小学校・小林優教諭)
また、生徒の思考過程を直接見られるようになったことが授業効果を大きく高めています。
「黒板とiPadが直接つながるようになり、児童の思考過程が見られるということが授業の効果をあげる上でとても大きいと感じています。従来は、iPadから成果物を提出してもらい、それを教員用のiPadから投影するしかありませんでした。思考の結果しか見ることができなかったのです。ワイードで黒板とiPadが直接結ばれることで、思考過程が見られるようになりました 」(小林優教諭)
「思考過程が見える」ということは、児童の積極性を引き出す効果もあると言います。「自分の作業過程が黒板に投影されるというのがあたりまえとなり、それが、児童の積極性を引き出すことにもつながっています。以前は、積極的に自分から手を挙げる児童ばかりが教室の中では目立つことになっていました。自分の考えたことが黒板に投影されることを恥ずかしいと考える児童もいます。でも、教員がそれは素晴らしいことだからみんなに見せてみようと促せば、とても嬉しそうにする児童がたくさんいます。それを何度か経験すれば、自信がついて、自分から積極的に発表するようになっていきます」(岩沼市立岩沼小学校・北澤直樹教諭)
校務のDX化がICT教育を押し進める
岩沼市では、このようにICT環境を整備し、各学校の情報化推進リーダーや、各学年に情報担当教員を置き、機器の使い方や活用方法の研修を行なっています。その際、「最低限、これだけ使ってください」というようなノルマは設定せず、どのように活用するかは各教員にまかせています。そのため、積極的にICT機器を活用する教員とそうでない教員の濃淡が生まれているのも事実です。しかし、消極的な教員でもまったく活用しないということはもはやなくなっています。
「ある時、ネットワークが不調で、iPadの内容を黒板に投影できないということがありました。すると、ICT機器を苦手としているベテラン教員が『あれが使えないとちょっと困る』とぼやいていたのです。ICT機器を授業で使うのがあたりまえという広がり方をしています。そこが岩沼市のよいところだと思います。ベテラン教員も、使い方を覚えるときに苦手意識を持つだけで、覚えてしまえば、自身の授業スタイルに組み込んで活用しています。授業の教育効果の点では、若い私よりはるかにレベルが高くて、学ばせていただいているところがたくさんあります」(小林優教諭)
なぜ、岩沼市では若手からベテランまで「ICT教育はあたりまえ」という意識が広がっているのでしょうか。北澤教諭は、授業だけでなく、校務にもICTが活用されていることが大きかったと指摘をします。
岩沼市の小中学校には、学校ごとのポータルサイトが用意されています。児童・生徒が欠席をする場合は、このポータルのフォームから連絡を入れることができ、保護者からも便利になったと高い評価を得ています。さらに、各種申請用紙などもダウンロードすることができます。
「ポータルサイトはGoogleサイトを使って作成しています。部品を並べるだけでWebサイトがつくれるため非常に簡単。児童・生徒も自分たちのポータルをつくって、iPadを使って動画撮影して、テレビ番組風に編集して公開しています」(北澤教諭)
また、学校便りなども紙での提供を原則やめて、PDFによる配布に切り替えています。これも保護者から好きな時に読むことができると好評を得ています(希望者には紙でも配布)。
さらに、大きいのがGoogle Workspace for Educationを教員の標準業務ツールに指定したことです。企業で使われるコラボレーションツール「Google Workspace」の教育版です。教員用iPadの他、教員個人のスマートフォンからも利用できるようになっています。
中でも、積極的に活用されているのがメッセージツール「Google Chat」です。岩沼市では大胆にも、教員の連絡事項をチャットでやりとりするようにしました。これで教員の打合せの時間が不要となり、業務負担が大きく軽減されました。また、重要な連絡も行われるため、ICT機器が苦手な教員もこれだけは見なければなりません。この校務のDXを通じて、全教員がICT機器の扱いに慣れていったのです。
チャットにはさまざまなルームが用意されており、その中では、大量の授業活用事例も情報交換されています。こんな授業をやったら効果があった、こういう使い方をしたらうまくいかなかったけどどうしたらよいのか?という情報交換が頻繁に行われています。教員はそのような多くの事例を読みながら、自分の授業計画を考えていきます。ICT教育に消極的な教諭もそのような事例を目にすることになります。その中で、「チョーク1本で勝負する時代は終わった」という感覚が共有されていきました。
「子どもたちが社会に出る頃には、仕事でデジタル機器を使うのがあたりまえになっています。それにたくさん触れさせておかなければならないという意識をすべての教員が持つようになりました」(岩沼市教育委員会・千葉雄太主査)
校務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めることで、教員がその利便性を実感し、ICT教育を進めている。これが岩沼市のICT教育推進の土台になっています。
教諭、児童・生徒にそれぞれのiPad。黒板、ワイード、液晶ディスプレイというICT機器を揃えた岩沼市の小中学校ですが、世の中の変化に即した教育を進めていくには、新しく登場する優れたデジタル教材の導入も欠かせません。しかし、市の予算には限りがあります。ここでも、うまくチャットを活用しています。
市の教育委員会では、デジタル教材の購入・契約を行いますが、原則最長1年間(年度終わりまで)のトライアル期間を設けることにしています。現場の教員に実際に使ってもらい、その活用例や問題点をチャットで交換します。このチャットには教員だけでなく、教育委員会の職員も参加し、日々、本音の情報交換が行われます。このような現場からの評価を参考に、教育委員会は本採用に向け、予算要求するかどうかを判断します。
これにより、導入に失敗する確率が小さくなっています。教員から「実際の学校現場では活用が難しい」というデジタル教材に関しては、採用を見送ることになるからです。無駄な採用をしないことで、限りある予算を最大限に活用することができています。
「教員の業務の土台が紙から電子になりました。教員のデジタルに対する意識が変わってきていることを実感しています。岩沼市が2012年に教員用タブレット端末の導入を進めて11年、児童・生徒用iPadの導入から2年がすぎ、市民のみなさんや議会はその成果を知りたがっています。教育というのはすぐに効果が現れるものではありませんが、すでに保護者の方々の間では、子どもたちの発信力や表現力が向上していることは実感していただけています」(千葉主査)
岩沼市では、児童・生徒のiPadを家庭に持ち帰らせています。家庭学習にも使ってもらいたいということと、自分のiPadであるという意識を持ってもらいたからです。壊してしまうのではないか、遊びに使ってしまうのではないかという意見もありましたが、岩沼市教育委員会では教員の意見も参考に、あくまでも勉強道具として勝手にアプリをインストールできない管理をした上で持ち帰らせることに決定しました。
「子どもたちはとてもiPadを大事にしてくれて、破損率は2年間で1.5%程度でしかありません。予備機で十分対応できる範囲です」(千葉主査)
岩沼市のICT教育が成果をあげているのは、ICT機器を「教室の備品」ではなく「学校の備品」「教育の備品」と考え、校務のDXも同時に進め、教員の意識を変えたことが大きな要因になっています。
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製品詳細 | 名称:ウルトラワイド超短焦点プロジェクター「ワイード」 ・機能と特徴ページ ・地域別の導入実績ページ |
カタログ・資料 | 全国の小中学校・高等学校を中心に約10,000台導入。黒板いっぱいに映せるウルトラワイドなプロジェクター「ワイード」のカタログやお役立ち資料はこちら カタログ・資料ダウンロード |
お問い合わせ | デモの際は、プロジェクター実機を持って学校へ伺います。「実際の映りを確認したい」「機種選定に携わる複数人で確認したい」という方は、ぜひお気軽にお申し込みください。 ・ワイードのデモお申込み、見積依頼はこちら ・ご利用ユーザー様向けのお問い合わせフォームなど、その他の窓口はこちら |
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